元派遣労働者4人、ジェイテクトを提訴

派遣労働者4人、ジェイテクトを提訴
2010年 9月 9日 19:41 《三重》 【取材ニュース】 <労働・雇用>
酒井徹

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前回記事:ジェイテクト、未払い賃金を「期間工」らに支払い 2009/10/31

――津地裁:不当解雇を主張――


津地裁に入廷するジェイテクト訴訟の原告と支援者
■ユニオンみえ「偽装請負だった」

 偽装請負で働かせた労働者を形式的に期間雇用し、解雇したのは不当であるとして、トヨタ自動車グループの部品メーカー・ジェイテクトの元従業員4名が9月9日に津地方裁判所に提訴した。4人は三重県の個人加盟制労働組合・ユニオンみえ(「連合」構成産別・全国ユニオン加盟)に加盟し、ジェイテクトに復職を求めてきたが拒絶され、提訴に及んだという。また原告の一人は、就職時に会社に申告したHIV感染の事実を無関係の従業員に言いふらされたとして慰謝料の支払いも求めている。

 原告らによると4人はいずれも2006年に、自動車部品製造・検査などの構内請負作業員を募集していた「三重エデック」(代表取締役:中川佳映)を通じてジェイテクト亀山工場で就労。しかし実態は、ジェイテクトの従業員らが三重エデックの「請負社員」に直接指揮命令する偽装請負の状態であったという。

 訴状によると原告4人は2007年にジェイテクトに直接雇用された形式となったが、実際には「直接雇用」後も三重エデックが給与明細の交付や有給休暇の届出などの労務管理を行なっていた。しかし三重エデックの中川社長は、「ウチとジェイテクトは特別な契約をしているから、ウチの子はジェイテクトの社員になれるんや」とか、「歳なんか関係ない。社員になれる」などと「直接雇用」された原告らに盛んに言っていたというのである。だが、4人は2009年に「期間満了」を口実にジェイテクトから雇用関係を打ち切られた。

 原告代表の福島照子さん(52)は、「歳なんか関係ない、頑張ったら社員になれるという言葉を信じて頑張ってきたのに、一方的にクビにされた。労働組合との団体交渉にもなかなか応じず、応じても話し合いもつかず、三重県労働委員会でのあっせんも決裂して裁判になってしまった」とコメント。「ジェイテクトでは今、求人が出ている。私たちはずっとジェイテクトに復職を求めて来たのに。私たちはただ、ジェイテクトに戻りたいだけ。裁判を頑張って職場に戻りたい」と訴えた。


正面右から2人目が、原告代表・福島照子さん。左から三重弁護士会会長の出口弁護士、加藤弁護士、右がユニオンみえ広岡書記長
■「HIV感染の事実を言いふらされた」

 また原告男性Aさん(46歳)は、血が固まりにくく出血すると血が止まらない障害があるにもかかわらず、切り傷をつくって出血する恐れのある業務に就かされた上、ジェイテクト亀山工場の女性看護師によって、エイズウィルスに感染している事実を不特定多数のジェイテクト従業員に言いふらされたとして、損害賠償の請求を併せて提起した。

 訴状によればAさんは2006年に、三重エデックに入社するにあたって中川社長に、自分はエイズウィルスに感染しており血が止まりにくく、障害者2級の認定を受けていることを説明し、診断書と障害者手帳のコピーを提出。ジェイテクトによる「直接雇用」にあたっても障害者枠扱いで入社し、ジェイテクト亀山工場総務課の渡邊係長に、自分の病状を申告していた。それに対して渡邊係長は、「障害者なのでしたら、検査作業の方を担当してもらいます」と答えたという。

 ところが2007年2月ごろ、Aさんはこの約束を破られて回転砥石の交換を含む「軌道研磨」の作業に回された。「『大型のラインで欠員が出たから臨時で作業してくれ』と言われたんです。『私は血が出ると止まりませんから、巻き込まれ・はさまれ・切り傷の危険のある作業は出来ませんよ』と言ったんですけど、『もうすぐ新人さんが来るから、2・3日でいいから』と言われてやらされました。その『2・3日』が1週間延び、2週間延びで、結局半年させられました」。

「そもそも、砥石の交換は資格を持った人しかできない仕事。なのに私にさせるにあたってジェイテクトでは監督指導もなく、『こうするんだよ』と見せただけでした。設備に体をつっこんでの作業もあります。危ないことがあるたびに、『現場を変えてください。元に戻して下さい』と言っていたのに、『次の人が来るまでお願いします。お願いします』というだけでした」とAさんはいう。

 みえ労災職業病センターの大川徳雄事務局長は、「この仕事は血が止まりにくい障害を持った人にはやらせてはいけない仕事」と指摘する。「回転物はある、突起物はある、研磨剤は滑りやすいし、砥石のかけらが飛び散る可能性もある。砥石自体が切れやすい。砥石も、止まっていると思っても遠心力で動いていることもあり、切り傷をつくる原因には事欠かない」。

 さらにAさんは、ジェイテクトに勤務中、反対番の友人から、「何かきみのことで噂になっている」と聞かされた。そのころからAさんは、車にひっかき傷を付けられたり、タイヤをパンクさせられたりしたという。

ジェイテクト亀山工場の女性看護師が、私がHIVに感染していることを他の従業員に言いふらしていたのです」。

 ユニオンみえがこの件を団体交渉で追及すると、当初会社側は「知らなかった」と言い、「持ち帰って確認します」と約束した。そして、8月19日に開かれた団体交渉の中で会社側は、「女性看護師がAさんの病気についての情報を井戸端会議のように話したらしい」と認めたという。

「私は、この女性看護師に病気にかかわる定期検診の結果を提出したりもしていました。そもそも、看護師というお仕事に就く人が患者の病気を言いふらすこと自体、一般人から見ればありえない話。しかも私の場合、病気が病気だというのに、不特定多数の人に言いふらしていたということ自体信じられません」とAさんは憤る。

 原告代表の福島さんも、「この看護婦さんはおしゃべりな人で、私たちに対しても検診のときに、『○○さん、ガンが見つかったらしいよー』なんてことを平気で言っていた」と振り返った。


マスコミ各社の注目も高い
ジェイテクト広報グループのコメント

訴状が届いていないので詳しいことは分からないが、三重エデックからは法令に基づいた手続きで労働者の派遣を受けていた。三重エデックが『請負』で募集広告を出していた事実は確認していない。その後、法令に基づいて期間雇用での直接雇用に切り替えた。Aさんの主張については事実関係に食い違いがあり、当社看護師が情報漏洩した事実はない。また、Aさんが従事した業務については現時点では確認できていない」。

■原告4人が所属するユニオンみえの広岡法浄書記長

「労働者をあまりにもいい加減に扱い、解雇してきたのはジェイテクトだけではない。全国何十万の非正規雇用の労働者たちが同様の仕打ちを受けてきた。だが、そうした人たちのほとんどは泣き寝入りを強いられている。私たちは、そうした労働者に組合に入ってもらって交渉を重ねてきたが、会社は悪びれずに法違反はないと突っ張って、労働者の権利を回復しようとはしない。労働者の権利が一方的に奪われて、使い捨てられることがないように、4人は提訴に踏み切った。ユニオンみえは全力で応援してゆきたい」。

【参考記事】

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酒井徹記者のプロフィール
 1983年8月22日生まれ。大阪府生まれ。
 トヨタ自動車期間従業員トヨタ車体勤務の派遣社員などを経て、現在派遣ユニオン東海に勤務。2008年3月から愛知県の個人加盟制労働組合・名古屋ふれあいユニオンの運営委員長。
電子メール:sakaitooru1983@excite.co.jp
ホームページ:『酒井徹の日々改善』
http://imadegawa.exblog.jp/

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