総理腹心・小野教授の『我慢するより需要をつくれ』を読む

大阪大学教授の小野善康教授(内閣府研究所長、菅直人総理腹心)が、9月22日付けの朝日新聞 opinion面の『ザ・コラム』に、『我慢するより需要をつくれ』という議論を掲載しています。

同コラムの最後の部分の『供給力が足りず、消費を我慢して技術と資本の蓄積をしなければならなかった時代から、十分な供給力を備えて成熟社会に入った日本は、その力を生活の質の向上にどう生かすかを考える段階にある。それなのに、まだ我慢ばかりしてお金を使わないから、失業を生んで、せっかくの供給力を無駄にしている。
海外需要の発掘を叫ぶのも、日本が自分で需要を考えずに外国に考えてもらい、お金を稼ぐことしか頭にないからだ。そのため対外資産が積み上がり、円高を招いて苦しんでいる。
今は供給力の増やし方ではなく、使い方を考えるときだ。それを避けていれば、いつまでも円高と不興に悩まされる。』

この点については異論はありません。

総理の腹心でいらっしゃいますから、総理を正面切って批判されることはありません。しかし、総理が『成長戦略』の名の下に、外需拡大をむしろ追い求めて(NPT枠外のインドに対しても含めて、原発を売りまくろうとするなど)いる現状がある。そのことに対して、やんわりと批判していると言えなくもありません。

四段目の、『しかし、十分な供給力があって需要が足りない現状では、供給力強化は人余りを招いて需要をさらに減らす。需要を海外に求め輸出攻勢をかければ円高を招く。』『だから、不況期には、生活の質に直結する分野で政府が支援し、雇用をつくることが成長戦略になる。供給力強化の成長戦略はその後行うべきであり、順番を間違えると逆効果である』というのはそのとおりです。



ただ、小野教授の議論には難がある。小野教授は財源を増税に求めておられる。もちろん、長期的な視点でいえば、日本の政府規模は小さすぎる。だから、需要サイドを刺激する様な大きな政府をつくるべきでしょう。小野教授がおっしゃるとおり、介護でも子育てでもです。農業もいいでしょう。なんでもいいんです。

ただ、その増税はまずは、お金持ちから頂くべきである。菅直人総理は、そこのところをすっとばして、庶民に負担が重い消費税を前面に出してしまいました。

さらに、短期的には、まず、景気優先にしないといけない。小野教授は『一時的な景気後退ならいざ知らず、今はお金への執着で消費意欲そのものが萎えた長期不況にある』『実際この20年間、財政も黒字化しなかったし、数年先に黒字化も見込めない。そのために国債が積み上がり、巨大な負担が不況の最中に降りかかっている』とおっしゃる。

ちょっと待っていただきたい。今は、長期金利は過去最低水準です。また、ずっと財政が黒字化しなかったのは、むしろ、アクセルを踏み続けるべきときにブレーキを踏んだからではないですか?

橋本龍太郎政権の消費税引き上げ。小泉政権による緊縮財政。これらが、景気を冷やしてしまった。そうなれば、現に、橋本さんが増税した年は、税収は増えたが、大不況で、翌年には、税収は元の木阿弥になってしまったのです。

小野教授は長期的な枠組みについては正しい認識を持っておられる。しかし、短期的な経済政策は残念ながら、誤っている。

こうした点が、河村たかし名古屋市長ら、『減税』を叫ぶ政治家に付け入る隙を与えている。

あるいは、リフレと小さな政府を組み合わせたみんなの党が中小企業経営者層やロスジェネ層にウケる結果になっている。

わたしは、やはり、経済政策は、短期の財政出動プラス長期の大きな政府、という亀井静香さんの路線を基本的には支持します。

短期的には、やはり、政府紙幣発行なり、無利子国債による財政出動が必要でしょう。