刊行:雨宮処凛さんが『反撃カルチャー』 「無条件の生存肯定」の運動

毎日新聞】エンターテインメント > 毎日の本棚 - 2010.08.24
刊行:雨宮処凛さんが『反撃カルチャー』 「無条件の生存肯定」の運動
http://mainichi.jp/enta/book/news/20100824dde018040076000c.html

◇新しい文化や共同体生む
 作家の雨宮処凛(かりん)さんの『反撃カルチャー』(角川学芸
出版、1680円)が刊行された。反貧困運動などの現場で生まれ、
育ちつつある新しい文化の息吹をリポートした本だ。雨宮さんらの
活躍で貧困問題は世の中に認知されるようになった。だが、「無条
件の生存の肯定」を掲げる運動の趣旨は、十分に理解されていると
はいえない。「この数年間の取り組みを網羅した」という雨宮さん
に話を聞いた。【鈴木英生】

 雨宮さんらが進める活動はプレカリアート(不安定な労働者を意
味するイタリア語の造語)運動とも呼ばれる。形態はさまざまだ。
従来と同様、企業との団体交渉や政府への働きかけも、もちろん行
う。
 他方、ときには奇異で、過剰なまでに表現力豊かな行動をするこ
とも。派手に音楽を鳴らして「生きさせろ!」「使い捨てにすんな!」、
果ては「銀行は金を配れ!」などと思いを叫ぶ「サウンドデモ」、
メールなどで呼びかけられた不特定多数の人が突如、街頭に現れ、
集団でパフォーマンスをする「フラッシュモブ」−−などだ。
 主要な労働運動に見過ごされてきた人々は、自分たちに見合った
新しい抵抗スタイルを生み出しつつある。派手な行動を「暴れたい
だけ」と批判する人もいるが……。
 「年に1回、メーデーでうっぷんを晴らすのが悪いことでしょう
か。『貧乏人は分相応に、哀れまれる対象でいろ』という圧力もあ
る。しかし、貧乏人は社会を変える主体であり、そこに新しい文化
や生き方が生まれているのです」
 フラッシュモブのように、運動の参加者は<組織化はされず、緩
やかなネットワークで繋(つな)がり、後は勝手にウイルス状に増
え続け>ている。フリーターらのメーデーは、全国15カ所以上で
開かれるようになった。韓国やイタリアの運動ともネットでつなが
るなど、国際的な広がりもみせている。
 1970年代以降の音楽やファッションを塗り替えた英国のパン
クロックのように、下層労働者から世界的流れが生まれる例は以前
にもあった。雨宮さんらの動きも、既に世界と結びつきつつある。
 他方、東京・日比谷公園での「年越し派遣村」のように、世の中
に広く知られた動きもあった。そこで感じたのは<新しい共同体が
一から作られていくような空気も確かにあった>ことだった。
 「無条件の生存肯定」は単なるお題目ではなく、具体的な現場で
生まれ、新しい共同性が作り出しつつある思想であり、現実なのだ。
そう主張する雨宮さんは、新しい運動の流れを「世界規模の貧乏ゆ
すり」と表現する。「貧乏」な人々が全世界を「ゆする」。その振
動が行間から伝わってくる。